2018/03/30

「宇宙よりも遠い場所」感想。青春ものとしてのバランスと冒険ものとしての面白さ

1クールもののオリジナル作品として、まごうことなき傑作でした。
1話から最終回の13話までほぼ最後まで息切れすることなく、途中何度も泣かされるエピソードを連発してのワンクール。そのシナリオ、構成はほぼ完ぺきといっていいくらい巧みで練り上げられていたと思う。

本作がノーゲーム・ノーライフでヒットしたいしづかあつこ監督を中心としたスタッフで作られていたことから、マッドハウスがこの作品に以下に力を入れ、いしづか監督に信頼を寄せていたかも伺える。

個人的にこの作品のどこが一番良かったのか、というのを考えると、おそらく青春ものとしてのバランスの妙にあったと思う。

現代の高校生くらいの女の子を主人公にした作品の舞台は、学校に限定されがちで、部活などの小さなコミュニティをメインにした日常や人間関係を描いた作品にやや偏りがちではないかと思う。
そういった作品の大部分が、ゆるくて居心地のよい箱庭的な世界での日常か、正反対に真摯であったりほろ苦さを含んだ関係や恋愛を描いた青春ものであるか、おおむねどちらかに振れているのではないかと思う。
直接的なわかりやすい例を出すなら前者は「けいおん!」であり後者は「ユーフォニアム」だろう。
どちらも素晴らしい作品であることは認めつつも、個人的には「けいおん!」はゆるすぎて「青春もの」としては物足りず「ユーフォニアム」はガチすぎてちょと辛い。

「宇宙よりも遠い場所」はその中間というか、青春ものとしてゆるすぎずガチすぎず、ストンと心に落ちてくる、ちょうどいいバランスの上に成り立っている。

女子高生が目指すものが、「南極に行くこと」であるという素材のチョイスも絶妙で、非日常的で「女子高生」からイメージするものから距離がありつつも、戦車よりもリアリティがあり絶対に不可能とは言い切れない。
ゆるすぎず少し高めのリアリティラインを守りながらも、日常からいい塩梅で逸脱しているおかげで、「ガチ」な青春ものとしてリアルな重さや生々しさに落ちいらずに済む。
視聴者の立場からは、これはフィクションだからという言い訳が成り立つので、多少の重さや青臭さがこちらを切り付けてくる恐れがない。
キャラの描写も逸脱しない程度に崩されて、シリアスにより過ぎないゆるさもしっかり担保されている。
このバランスの上で青春ものとしてのドラマを次々と放ってくるため、無防備になった心の隙間に入り込み、涙腺をガンガン決壊させられてしまうのではないかと思う。


本作のもう一つの魅力は、青春ものでありながらこれが現代を舞台にした見事なまでの冒険ものであるからなのではないかと思う。
如何に女子高生が南極にたどり着くのかという物語は、これだけでも想像力を刺激し、十分ワクワクしてくる。そこをテクニカルにリアリティを逸脱することがなくせいりつさせた構成だけでも見事なのだけれど、さらに本作はその上をいっているのだ。
物語の大筋をざっくりまとめるとだいたいこんな感じでまとめられると思う。

「冒険を夢見ながらも勇気がもてず踏み出せずにいた少女(キマリ)が、失った母の眠る未地の場所(南極)を目指す孤独な冒険者(報瀬)に出会い、共に目的地を目指す旅に踏み出す。その過程で仲間(日向、佑月)を得て友情や絆を深め、困難に立ち向かい、ついには目的の地にたどり着き、孤独だった冒険者は、そこで失ったものを取り戻し、大切な宝を手に入れる。」

ファンタジーものでも十分成り立ちそうなプロットであり「冒険」に必要な要素がしっかりとそろてっているのではないだろうか。
冒険ものを現代で成立させるのは、かなり難しい。
それをこの作品は見事に成しえている。
そういう点においても、かなり稀有な作品であり、成功例なのではないかと思う。













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